世の中で、「実践的教育」、言い換えれば「実学」という言葉を聞くことが多々あります。しかし私はこの言葉の意味がイマイチよく分かっていません。伝統的な講義教育手法に対する単なるアンチテーゼのようにも聞こえます。「座学なんて意味ねーよ」的な。
とはいえ高専はその存在意義から、実践的教育というものをリードしていく立場にあります。所属するエネルギーコースのカリキュラムを見てみますと、その実験・実習授業には2つの流れが併行して存在しています。
一つは毎週の学生実験です。3・4・5年と毎学年あります。私は4年をずっと担当しています。これを仮に「A実験」と呼ぶことにしましょう。A実験は毎週決まった実験テーマをこなして、取得したデータをレポートにまとめて考察していくという、世間一般的な学生実験です。もう一つは少し長いスパンで、1クォーターで1テーマ、すなわち半期授業では2テーマが標準的で、もの作りからレポート・プレゼンテーションへ体系的に仕上げていくというものです。これを仮に「B実習」と呼ぶことにしましょう。実践的教育とは、B実習を指すのかなと思っています。
B実習に属するのは、3年生前期の専門創造演習、同後期の課題研究、4年生前期の創造設計基礎演習、そして5年生通年の電気電子設計です。これらのテーマは長ずるにつれて、枠が決められたものから自由裁量の度合いを増やしていきます。最終段階は卒業研究ですね。4年生後期にB実習がないですが、これは卒業研究が始まるからです。
この手の教育は、高校のようなカチッとしたクラス単位教育が基盤にないとできません。自由を尊ぶ大学では実行しにくいことかなと思います。大学では4年生、早いところでは3年生から研究室配属されて卒業研究が始まります。しかし以上の段階を得ずにいきなり最終段階の卒業研究へ行くので、ミスマッチを起こす学生さんがいることは否めません。
そう考えると、生まれる遙か前の話で自分の中で勝手に理想化していますが、戦前の旧制高校 → 旧帝国大学という流れは教育的に相応しかったのではないかと思います。旧制高校の役割を高専4・5年の高学年次は目標とし、かつ担っていくべきかなと思います。
私はB実習の最終形として、5年生で電気電子設計という通年授業の前期分をずっと担当しています。テーマは前後半直列の計2つで、前半は電子回路の設計、後半はインピーダンスマッチングとしています。座学と実習のコンビネーションながらも、自由裁量の部分を考慮して行っています。着任初年度からこの授業を担当しており、他担当授業と組み合わせて体系化しています。前任者が残した資料もあったのですが、せっかくならと自分が新しく創ることにしました。初年度は準備期間を踏まえて後期側に回していただいたにも関わらず、直前の9月頃は授業計画の作成に頭を抱えていました。自分の授業だから自分自身で組まないと気が済まないと思いつつ、結局頭を抱えるという自己矛盾的な構図は今も変わりませんね。でも、年月をかけて安定軌道に乗せられた今から振り返ってみれば、懐かしいです。
5年生は、A実験・B実習・卒業研究の3つが同時併行で走ります。卒業研究一本の大学とは大きく異なるところです。さらに座学授業が加わります。座学授業の数は3年生がピークで、4年、5年と進級する毎に減ってきます。しかし当然ながら、個々の内容は深くなってきます。時間割が全て詰まっている3年生をクリアして4年生になると、時間割的には楽になったように見えますが、当の学生さん達からは「4年の方が忙しい」という声を聞きます。5年生になるとさらにコマ数は減るのですが、「5年の方が忙しい」となります。ただし自由裁量を遊べるものと勘違いして堕ちていく学生がいるのも事実でして、学生間の格差が如実に表れてきます。でも高等教育とは、そういうものかなと思います。注意したところで、噛みついてくる者もいます。どうぞ自己の正義を追求してくださいというところで。選挙権を得て人を選ぶ権利を有したということは、自身も人から選ばれる責めを負っているということに気づいて欲しいところです。
さて先日、卒業生の行先で高周波プラズマ装置が壊れたという話を聞きました。大方、高周波電源が壊れたのだろうと思っていたら、その通りでした。その卒業生に、「何故高周波電源が壊れるのか、装置におけるインピーダンスマッチングはどういう原理でどういう役割を果たしているのかは伝授したよね」と話をしました。装置技術が進んで、ボタンを押すことだけを学んで世の中に出ていく高等教育修了者は少なくないですが、自分が手塩をかけた学生達にはそうあってほしくないと、日々向き合っている次第です。
多方面の校務に振り回される高専とは違って、研究に専念できる大学環境は非常に魅力的です。とても羨ましくあります。ただその一方で、大学の教育とは何なのだろうとも思っている次第です。
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