4E実験

 着任以来ずっと、4年生エネルギーコースの学生実験(4E実験)を担当しています。4年生の実験は、電機(強電)分野と電子(弱電)分野に分かれていまして、私は電子分野の方をずっと受け持っています。つまり半分だけの担当になります。

 4E実験は通年科目ですが、半年後の後期から卒業研究が併行して始まります。5年生になっても学生実験は続きますから(※こちらは担当していません)、学生実験と卒業研究が併行するのは高専ならではです。学修内容とレベルからして、本来これらは直列に繋ぐべきものなのですが、5年間という短い学修期間では並列作業は仕方がありません。

 このような時間的位置付けもあって、私は4E実験を「卒業研究への試金石」と捉えています。ここで頑張れるかどうかで、その後の人生が変わってくるとさえ思っています。3年生までは目立たなかった学生達の中から、4E実験を通して大化けする者もいます。そしてそれが卒業研究へと繋がっていき、世間にその名を轟かすレベルにまで行く者もいます。このような、それまで見えてこなかった大樹の芽を見出すことは、科目担当として一番の喜びです。ペーパーテストの成績という一次元だけで人を判断するのは宜しくないです。

 もちろん高専ですから、3年生以下でもガッツリ実験はあります。もう、可哀想なくらい。しかし4E実験ともなると、内容も相応のものとなってきます。それだけ差が付きやすくなってきます。

 レポートは学生各自、特徴的です。基本的にレポート作成期間はたった一週間なのですが、中には驚愕すべきレベルに仕上げてくる者もいます。正に才能の発揮しどころです。「いや、こいつすげーな」と、感嘆するばかりです。

 ただし、今のご時世には不釣り合いかもしれませんが、レポートは全て手書きとしています。単純にはコピペ防止という目的がありますが、それだけではありません。

 文章・文体というものは、その人自身を表します。その人の生き様を表します。けど、まだ若いですから、性格と言い換えた方が良いでしょうか。特に日本語は表現性が豊かな言語ですから、その人の人間性が如実に表れます。数式は一つかもしれませんが、そこへ至る説明の文章は人それぞれです。

 たとえば、鷹林の文章は、良くも悪くも、鷹林にしか書けません。

 そのため、上手下手関係なく、文は自分自身で書く必要があります。そうでないと、自分自身に嘘をつくことになります。嘘はいつか必ずバレます。

 とはいっても、一つ残念なことがあります。それは、「理論を絶対視」する傾向があることです。理論というのは、限られた範囲のデータから導き出したもので、必ずしも現象全てを説明できるものではありません。それなのに、実験結果が理論と整合しないと、「誤差」とか「ミス」とかで片付けようとします。たかが学生実験と言うなかれ。この点をきちんと指導しておかないと、後々の人生に響きます。

気に入ったので研究室に掲げてますが、学生実験にも通じます。たかが学生実験と言うなかれ。

 一方で私、化学生物系の学生達に電気工学の基礎を教えています(これこれ)。化学系出身ですから、化学と電気を繋ぐことを楽しくやっています。座学ではありますが、それだけだと面白くないので、実習を少し混ぜています。ちょっとした回路実験です。ちょっとした内容とはいえ、化学生物系の彼らにさせると、上手いです。悲しいかな。

 化学生物の実験は基本的に、成功しません。「A + B → C」という、式で書くとたったこれだけの反応も、実際にやってみると、下手な人ならば収率0%となります。アボガドロ数の制御をするのですよ。失敗して当然です。そんなとりわけ経験がものを言う世界ですから、当然学生達の実験レベルは段々上がっていきます。私もそんな世界で育ってきましたので、実験は上手いという自負があります。

 他方こちら。「できて当たり前」、「動いて当たり前」、「教科書通りで当たり前」という固定概念があるので、上手くいかないことを承服できず、「誤差」とか「ミス」とかでまとめにかかります。そんなふうに考えてたら、ゴールは永久に来ないですよ。果てしない理想を追い求めて。

 「実験は発見を可能にする技術であり、証明するための道具ではない」です。学生さん達には、観察眼を磨いてほしいなと思います。全てはそこから始まると思います。

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