特許あれこれ

 一昨年に有明高専にて初めて出願した特許が、この度公開されました。当時携わった研究室学生さん達ならびに地元企業との共同発明です。私は博士号を得て研究者すなわち学者として独立してから、偶然ではありますが、企業との共同研究に多くの時間を割いてきました。そこで学生時代に経験することのなかった特許制度を自ずと学び、現在に至ります。というわけで私、機会があれば、論文だけではなく特許をも狙ってきています。

 特許というのは、出願してから1年半後に公開されます。「公開特許」と呼ばれているものです。発明の権利は出願時点から生じますが、重複出願を防ぎ、またその発明の刺激により新たな発明を社会に促す意味もあって、公開されます。ただし、すぐに公開すると模倣もされやすいので、1年半後です。公開特許は、誰でも無料で閲覧することができます。特許は出願時に「特願-○○」という名前が付けられますが、公開後は「特開-△△」に改名されます。○○や△△は整理番号ですが、同じにはなりません。もちろん、相互の関連性は特許内容文に明記されています。

 ただし、特許権を正式に成立させる、俗に言う「権利化する」には、公開後に特許庁に審査請求をする必要があります。特許出願は有料とはいえ誰でもできますが、特許庁は審査請求を受けて、その発明が国家として特許権を与える、すなわち独占使用権を与えられるべきもの否かを審査します。

 なお特許の文章というのは独特なもので、たとえ発明者であろうとも素人が容易に書けるものではありません。出願手続きも煩雑です。そのために弁理士制度があります。私は特許を出したい際には毎度、発明内容をスライドなどで弁理士さんにお伝えして案文を書いていただいています。もちろん費用はかかりますが、業務とはいえ、赤の他人の発明をスッキリとした文章に仕上げる弁理士さんの能力には甚だ敬服するものです。自分が弁理士になるつもりはありません。むしろ弁理士さんを通じて、自分の発明(研究)が第三者にどう映るかを楽しみ、学ぶことができます。

 審査を無事合格すると晴れて特許権の成立となり、その特許は止め名となる「特許第□□号」に変わります。ここまで来てようやく、一般的に知られている独占使用権を有している特許になります。ただし、これら一連の審査とその後続く最長20年間(※医薬品は25年)の特許権維持に課される「年金」と呼ばれている料金は高額になりますので、公開のみで一連の発明活動を終わらせることもあります。この場合、独占使用権は生じず、模倣者に使用料(ロイヤリティー)を請求することはできませんが、発明は公知、つまり皆が知っているということになりますので、その発明に関連した他者の特許出願を防ぐことができます。皆が知っている内容は、当然ながら特許にできないからです。このような公開特許の使い方を、俗に「防衛特許」と言います。

 一般的説明が長くなりました。さて、昔の学者にとって、特許は関心が低いものでした。「公金で出せた研究成果を個人が独占するのはイカン!!」という考えが主流でした。しかしながら近年、大学や高専などの高等教育機関が軒並み独立行政法人化されてしまい、それぞれ自分でお金を稼がなくてはならなくなりました。そこで、「研究成果を特許にして稼いでいこう!!」という真逆の考えに変わってきました。

 でもそこは「(博)士の商法」です。学者が特許を持っていても、何の価値もないと思います。特許は、企業と組んで事業化できる体制で出願すべきものです。ある発明を独占事業化するにあたって、たった一つの特許がその発明の裾野までを含む全てを網羅できるわけはないので、継続して関連する特許を出していく必要があります。そうなると、ある意味政治の世界となり、学者の出番ではなくなってきます。

 学者は論文を優先すべきであり、論文で評価されます(※我ながら耳が痛い・・・(ノД`))。論文執筆と特許活動との共存は難しいものです。論文と特許の違いは、論文はその発明内容に関して結果を細かく解析し考察していくのに対して、特許は新規性さえ分かれば良いです。論文にしていくには、学会で他の学者さん達と議論を積み重ねて内容を詰めていく必要がありますから、自ずと公知になってしまい、特許で最も重要な新規性が失われてしまいます。そこで日本の法律では、特許法第三十条に「発明の新規性の喪失の例外」という条文を設けています。これは、予め認められた学会で発明内容を発表して公知とさせたとしても、1年以内ならばその特許を出願できるというものです。

 特許は国家毎に管理します。残念ながら、特許法第三十条は、他の国では通用しません。国際的に特許権取得を進めていくならば、使用は控えるべきものです。しかしながら、教員として学生さん達の教育という責務も負っている以上、「この内容は特許を出すから学会活動は禁止です」とも言いにくいです。難しいところです。

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