鉛フリーはんだ

 1000年に一度の美少女とか、毎年最高の年となっているボジョレー・ヌヴォーとか、時間的感覚に疑義が生じる現代です。しかし真に1000年に一度の大発明といえば、鉛フリーはんだです。ノーベル賞をもらえてないのが不思議なくらい。

 電子回路の作製に欠かせないはんだは、考古学的には紀元前からあったそうです。はんだは鉛と錫との合金で、融点が金属としては低いのでちょっとした加熱で溶けて、またすぐ冷えて固まります。導電性があるので、回路配線の接続にはなくてはならない存在です。

 しかし鉛には毒性があります。代表的な例として、塩基性炭酸鉛2PbCO3・Pb(OH)2、通称鉛白の話があります。

 鉛白はその名前の通り、綺麗な白色の粉体です。古来、女性のおしろいに使われてきました。「色の白いは七難隠す」と言われますからね。しかし鉛白が鉛物質であることには違いないので、肌を通じて鉛の毒性が吸収されます。「佳人薄命」という言葉は、正に鉛白による鉛中毒と繋がっています。

 近現代、化学分析技術が進んだことにより、鉛の毒性が明確にされ広く知られてきました。代替材料に酸化亜鉛(ZnO)や酸化チタン(TiO2)があったため、化粧品用途の鉛白製造は1934年(昭和9年)に早々禁止されました。現在は、文化財修復などの限定的用途に限って流通しています。

 一方、鉛はんだは長らくそのままでした。それだけ優れた材料でした。1990年代になってようやく、鉛を含まない鉛フリーはんだが開発されました。2006年に出されたRoHS指令では、電子機器における鉛の使用が厳しく制限されることになりました。企業時代に品質管理業務の一つとして、RoHS指令への対応があり、深く勉強しました。その経験が担当授業に活きています。

RoHS指令です。2019年に改正されて、現在は10物質が対象です。

 RoHS指令はEUの規則ですが、輸出産業大国である日本は守らないわけにはいきません。一方で鉛はんだの国内流通に未だに規制がないのが、全く不思議なところです。

 鷹林研究室でももちろん、はんだは使用します。装置は自作するものです。ただボタンを押す人ではいけません。メンバーの健康と安全を踏まえて、当初から鉛フリーはんだです。

鷹林研究室では当初から鉛フリーはんだです。

 ただし鉛フリーはんだは、100%鉛はんだの特性を得たものではありません。融点が高くなっているため、使用にはちょっと技術を要します。この区別が容易な融点の違いがあるため、鉛はんだと鉛フリーはんだの混在は絶対に避けなければなりません。成分が偏る偏析という現象が起きて、割れて品質不良になるからです。RoHS指令もあり、企業では通常鉛はんだの使用は禁止されています。それでも例外として古い製品の修理などの限定用途で使用する際には、偏析防止のため鉛フリーはんだとの厳正な区別が求められています。ハンダごてやその他周辺装置・治具などは完全に分けなければなりません。

 そんなわけで、鉛はんだから鉛フリーはんだへの切り替えは、徐々にではダメで、一斉にしなければならないのです。阪急旧梅田駅の地上切り替え京成電鉄の改軌工事と一緒ですね。そこでは必ず「もったいない」という意見が出てきます。そんなことは百も承知です。日本人のモッタイナイは世界語になったように美徳の一つではありますが、諸刃の剣でもあります。分別のないモッタイナイは、ゴミ屋敷を造り上げます。自宅ならまだしも、公共の場にゴミ屋敷を造り上げて自己陶酔する者もいます。

モッタイナイは百も承知。拘泥していては、品質管理はできません。

 先日、鉛フリーはんだの話をしたときに、「鉛は毒ですか?」と強く聞かれました。開いた口が塞がりませんでした。

 若い頃、先生にある会議での議論とその顛末を聞かされたことがあります。確か図書館関係の会議で、電子ジャーナル化推進の議論の際、パソコンの扱い方が分からないと年配の教授に強く反対されたという話だったと記憶しています。「最高学府にそんな人がいるの?」と驚いたら、「世の中にはそういう人もいるんだよ」と諭されました。そんな昔の記憶がよみがえってきました。学生さんなら分かります。しかし広い地球、広い宇宙には、鉛が毒ではない生命体もいるようです。

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