価値観の成熟

 電気磁気学関係の授業ではよく、「Maxwell方程式は、ノーベル物理学賞100年分の価値がある」と話しています。同時に、「ハーバー・ボッシュ法は、ノーベル化学賞100年分の価値がある」とも話しています。

 Maxwell方程式は、これまで紹介している通り、人類が文字のない太古の時代から全くの別物として扱ってきた「電気学」・「磁気学」・「光学」を統一し、現代社会には欠かせない無線工学の境地を切り拓きました。

 ハーバー・ボッシュ法、すなわちN2 + 3H2 → 2NH3は、空気中の不活性な窒素分子(N2)からアンモニア(NH3)を合成することを可能にしました。アンモニアから窒素肥料(硫酸アンモニウム((NH4)2SO4)など)の増産ができて、人類から飢餓がほぼ消えました。現代に残っている飢餓は、天災よりも紛争などの人災のためです。これに関しては、人類の更なる叡智に頼るしかありません。

 世の中の何か特定の分野や領域を集中して発展させたい場合、世の人々の心向きを統一するsymbolが必要です。学問の分野では上記のノーベル賞、プロ野球では名球会でしょう。

 ただしその副作用として、それ以外の価値観を低く見てしまいがちです。ノーベル賞が取れそうな研究に特化するとかです。国際会議の場においては、ノーベル賞が取れなかったことへの露骨な不快感や、学問本来の目的を逸脱したノーベル賞を取るための野心をあらわにする人達を見かけます。プロ野球だったら、200勝・2000本安打に拘り続けることです。

 その世界が発展すると、それは新たな金脈を探すが如く、細分化していきます。ノーベル賞の受賞内容も、やたら細かい分野になってきています。

 こうなってしまうと、もはや価値観を統一するためのdriving forceは必要でなくなります。価値観は成熟し、多様化していきます。200勝を取れなくても、時代に名を残し、人々に興奮と感動を与えた名投手は数多くいます。学問の様々な分野においても、尊敬すべき先達は数多く、己の非浅学非才に悩まされる日々です。

 ただマスコミだけが、多様性を認識できないでいるようです。多様性を認めてしまうと、個々の価値観の絶対数は少ないですから、営利が乏しくなるからでしょう。オリンピックがダメとは言いませんが、必要以上に喧伝しているように思えます。

 人生においても、若い頃は、「偏差値の高い学校」に価値観を置きがちです。しかしいざ社会に出てみると、そんな組織に属したことに大した意味はなく、個々人には「何を価値基準にして何を学び、それをどのように社会に活かすか」が求められます。つまり、個々人が精神的に強くあらねばなりません。

 ただし、精神的に強くなるということは、容易なことではありません。となると、やはり、symbolは要るのかなと思ったりします。

 

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