以前にも載せたように、今期からCL(応用化学/環境生命)コースに「電気工学基礎II」という科目で、電子工学の基礎を講義しています。ダイオードやトランジスタの基本的なお話です。
授業をするからには、授業資料をつくるために勉強し直します。私はEコースにはいますが、彼らと同じ化学出身なので、自身の経験を基に授業計画をつくることができます。全ての物事を一気に叩き込んでは消化不良を起こしてしまいますので、必要なものを必要なだけ絞って、根本と基本をと取捨選択しています。
さて世の中の報道で誰もが耳にするように、日本はかつて電子立国と呼ばれ、電子工学は日本のお家芸でした。しかし現在は、韓国や台湾などの周辺諸国に置いてけぼりにされています。それで、「俺たちは何故失敗したのか?」という様々な反省論は後を絶ちません。
化学と物理と電気を渡り歩いてきた私からすれば、それは「電気と化学の不融和」にあるんじゃないかと思います。授業を進めていきながら特に最近強く思うようになりました。
電子工学の大部分は、シリコン(ケイ素、Si)という物質を如何に加工するかにかかっています。酸化膜SiO2の膜質コントロールから始まり、そしてそれを如何に微細加工してスケールダウンしていき、Mooreの法則を満たし続けていくか(More Moore)。また歪み加工(歪みSi)や三次元加工(Fin構造、Gate All Around (GAA)構造)などの三次元精密加工や、ゲルマニウム(Ge)、GaAsやInPなどのIII-V族半導体、SiC・ダイヤモンド・グラフェンなどの炭素系材料というSiに代わりうる新規材料開発(Beyond Moore)。要するに、「化学」の知識が知ります。
はたまた高移動度トランジスタ(High Electron Mobility Transitor (HEMT))の二次元電子ガス(2 Dimension Electron Gas, 2DEG)構造を理解しようと思えば、「物理」の知識も要ります。でもまあ、電子工学と物理は割合近いです。ところが電子工学と化学は遠くて、電子工学の人達の化学知識を聴くと、「???」と思うことしばしばです。
電気の人は、化学を毛嫌いする人が多いです。逆もありますけど。でもそれで、これからの時代を生きていけますか?
そうです!! 電子工学をやろうと思えば、電気の世界だけに閉じこもっていては、どうにもなりません。伝統的な「電気は電気、物理は物理、化学は化学」の縦割り構造に固執していると、そりゃー、時代から取り残されていきますよ。電子工学の日進月歩は、1947年のトランジスタの発明から現在のスマホ生活への変貌の歴史を俯瞰すれば、一目瞭然です。1940年台のスーパーコンピュータよりも、今手元のスマホの方がはるかに高性能です。
そう考えていけば、有明高専のECL (環境・エネルギー工学系)という括りは、電子工学の立場からは大変先進的なものに思います。これを如何に上手く運用して、電子立国の再興を担う人材を世に送り出し、そして彼らがもたらす幸せな年金生活を迎えられるかは、教員達の頑張りにかかっているのだと思います。
まあ、というわけで、頑張っていきますです。
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