昔から言われている高専特有の問題に、「中だるみ」というものがあります。従来の単学科制では、5年間という長い期間をほぼ同じメンバーで過ごすため、馴れ合いが生じます。学生間だけでなく、教職員との間でも。仲が良いという表現もできますが、一つ間違えば甘え合いであり、極めて狭い世界で堕落し合っていくということになってしまいます。
「中高一貫校では、それよりも長い6年間ではないか?」という比較的疑問兼批判があります。しかし中高一貫校は大抵進学校であり、有名大学合格という明確な目標があります。有名大学受験は周知の通り過酷なものですから、中だるみは自身の命取りともなりかねますので、そのような心配はありません。
それに引き換え、高専は明確な目標を立て難いです。求人倍率は当初より高いので、学生の中には、少々たるんでいても就職できるという甘えが生じる場合があります。高専には中学時代に相応の成績を取らねば入れませんから、学生達は本質的に素直で染まり易いです。ですから、一つの中だるみは大きな波及効果を生じ、学級崩壊になってしまう場合も残念ながらあります。
では進学校に倣って大学編入学を主眼に置くことはどうでしょうか? これは政治的な問題となり得ます。この手法は高専の設置理念自体を脅かすものであり、かつ編入学制度自体がマイナーな制度なので、これで中だるみを抑止することは難しいです。専攻科進学は、詳細は別途書きますが、非常に狭き門であり、環境が連続するので、これもあまり効果的ではありません。
さて、有明高専では近年、創造工学科という総合学科制に舵を切って、この春にはその2期生が卒業していきました。2年後半からコース選択となる現制度では、同じクラスになるのは2年半と半分です(※2年次後期は専門授業の場合のみ)。このような総合学科制では、専門科目数が圧迫されるというデメリットはありますが、もたらされる競争意識は先の中だるみの抑止につながり、結果的に学力も良い方向に向かっていると、私は制度を肯定的に捉えています。実際、期を追う毎に、学生達の意識が良い方向に変わっていることが手に取るように分かります。
それに、あまり早期に専門分野を決めてしまうことは、学生達にとって必ずしも良いことではありません。各専門分野の詳細内容など、中学3年生の時点で十分把握するのは不可能です。自分の真の希望と可能性は、広い世界を幾分知ってから選択しても決して遅くはありません。
また、外国人留学生や工業高校からの編入生が、それぞれ3年次および4年次に入ってきます。彼らの目的意識は明確かつ高いので、当初からの学生達にとっては良い刺激となります。ただ、彼らがクラス上位を占めてしまうと、高専の低学年教育とは何だったのかと嘆きたくなることもあります。
総合学科制の理念には大いに賛同します。しかし従来の専門領域の垣根をなくすその実現には、教員の実力が試されます。
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