Tag Archives: 研究

教材と研究

 教材は全てオリジナルで作っています。教科書は一応指定していますが、これは主に最終確認と自習用です。最終確認というのは、私自身が誤って理解していないかを確認することです。自習用とは学生さんので、私の伝達法だけでは理解が偏ってしまうかなと恐れるからです。高等教育は高度な分、教授法も千差万別です。

 初等教育、たとえば1 + 1 = 2というのは、誰が教えても大差ないと思います。しかし高等教育となり、内容も高度になってくると、上述のように教授法は千差万別ですから、教える側の力量が効いてきます。何を教えるかよりも、「誰が教えるか」です。

 力量がないと、教科書の字面だけを追って授業することになります。教科書というのは、人類が長年に渡って積み重ねてきた知見をコンパクトにまとめたものです。人類は成功よりも失敗を多く積み重ね、その失敗を都度乗り越えてきたことで、現代の高度文明があります。

 教科書は、失敗をほとんどカットして、成功事例のみを集めたものです。皮肉な話ですが、基本的にそれだけを読んで真に理解できるようにはできていません。失敗せずして成功することなんてないのですから。失敗事例まで組み込んでしまうと、分野によっては、教科書の厚さは富士山よりも高くなるかもしれません。

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佐賀県工業技術センターでラマン分光

 夏季休講最終日の本日は、佐賀県工業技術センターラマン分光(Raman spectroscopy)測定に行きました。夏季休講中といっても、教員はぜーんぜん休みではないのは先に述べた通りです。

 先日SAGA-LSで熱処理&測定した試料を、今度はラマン分光測定です。SAGA-LSで行った光電子分光は、対象原子と結合する原子(主として第一隣接原子)間の結合エネルギー(binding energy)を測定し、その変化から対象原子の化学結合状態ひいては試料の化学構造を考えていくものでした。

 これに対してラマン分光法は、もっと大きなスケール、すなわち対象分子やその集合構造の幾何学的対称性から化学構造を考えていきます。

 どちらも分光法(spectroscopy)というくくりでは一緒ですが、試料に与えるエネルギーとその結果出てくるエネルギーの大きさが違います。専門的に言いますと、電子励起と振動励起の違いです。各測定法には長所もあれば短所もありまして、一つの測定法だけでは分からないことや見えないことがありますので、複数の手法を用いて複眼的に研究を進めていくのです。

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研究と顧客第一主義

 研究を続けていると、「うわーマジかよー!!」という実験事実に遭遇したり、思いがけない結論に到達したりします。「まいったなー」と頭を抱えることは日常茶飯事です。このような神さまの冷徹な判定に対して、研究者はその意を汲み取ろうと必至に考えます。議論で2時間なんて、あっという間です。

 普通は、「実験事実が間違っている」とは考えません。まあ、誰でもそう思いますね。しかし現場で日々闘っていると、そうも思いたくもなる時があります。これって、そう、悪魔のささやきですね。傍目八目的立場では決して分からない体験です。

 このような自分自身の力ではどうしようもない実験事実を突き付けられて、その対応に頭を悩ます経験は、ビジネスの世界にも生きてくると思います。「研究なんて関係なーい!!」と宣う人は、ビジネスの世界で成功はしません。逆に言えば、顧客の面前で日々苦闘しているビジネスマンには、研究の才能があるでしょう。難しい理論や数式などの知識が表に出てくるので、「はぁ?」と思われるかもしれませんが、本質的に要求される能力は満たされていると思います。それは、「謙虚に学ぶ」能力です。知識はあくまで道具でしかありません。

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九大デビュー

 本日は共同研究打ち合わせのため、九州大学の伊都キャンパスに古閑一憲先生を訪ねました。実は私、九州大学はこれまでの人生で一度も訪れたことはありません。行ったことがないうちに、箱崎から伊都キャンパスに移転していました。

 さて、大牟田から西鉄電車に乗り天神へ。天神から直通の急行バスに揺られて到着です。まあまあ遠いですね。

とうちゃこです。建物大きいですし、波形ですー。 くねくね人♪
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測定条件と中冨記念くすり博物館

 本日はSAGA-LS実験最終日でした。前回で測定条件は出したので、今回の測定はスムーズに進みました。放射光分光測定というのは一度スタートさせると、測定条件によっては終わるまで非常に時間がかかります。精密な測定を心がけてスペクトルの分解能を上げようと条件を絞っていくと、強度は弱くなるからです。一般に、分解能と強度はトレードオフの関係にあるので(細かく分ければ、一つ一つへの配分は減りますね)、その妥協点を見つけることが、前回行った測定条件を出すということの目的の一つであります。

 そこで条件を絞ったら、測定時間を長くして検出記録するスペクトル信号強度を増やして、S/N (信号/ノイズ)比を改善していきます。取り決めたある一定時間の記録の回数(積算回数)を積み重ねていきます。専門用語で、「光を貯める」なんて言ったりします。スペクトルがガタガタだと、「もっと貯めないとね~」なんて。Nの分布がガウス分布(正規分布)に従うとして積算回数をn回とすると、統計学的にN ∝ (n)^-1/2です。4 (= 2 x 2)回積算すると、ノイズは半分(0.5倍)に。16回 (= 4 x 4)で、その半分の0.25倍。64回 (= 8 x 8)で、さらに半分の0.125倍という風に。私の場合は一測定最長3時間です。測定中は特にやることナシです。装置が爆発したらそりゃ困りますが、通常はあり得ませんわ。

 データ処理諸々の作業だけでは時間を持て余しますので、ゲストハウスに戻って一休みしたりしていました。しかしチェックアウトした最終日はそれもできないので、近くの「中冨記念くすり博物館」に社会見学に行ってきました。

お世話になります。

 SAGA-LSのある佐賀県鳥栖市田代の町(肥前国基肄郡田代領)は江戸時代、対馬国対馬藩の飛地で、「田代売薬」として薬の行商で有名だったそうです。すいません、越中国富山しか知りませんでした。それを後世に伝えるため、サロンパスでお馴染みであり、この地で創業した久光製薬さんがこの記念館を建てられたそうです。そう、私のような者のために。館内には薬に関する様々な展示があり、面白かったです(※写真撮影OKだったので以下に載せます)。

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SAGA-LS Again

 今週一杯は、SAGA-LSで泊まり込み実験です。休講期間中は実験のチャンスです。コロナのご時世で予定変更を重ねまして、ようやく実験に辿り着けました。前回の実験の続きです。ホント、難しいご時世です。ご時世で学生さん達の同行はできないので、前回と同様に有明からは私一人です。残念。

真空加熱(アニール)実験の全容。

 上の写真は実験中のものです。真空チャンバー中に試料を入れて、手前右の電源から電流をたくさん流して600°Cで加熱しています。専門用語では、焼き鈍しの意である「annealing」(アニール)と言います。電流を流すと熱くなるのは、大丈夫ですね。

 「600°Cって、燃えるじゃん!!」と思ったそこのアナタ、大丈夫です。真空チャンバー中は真空度が10^-5~10^-6 Pa台に真空引きされていますので酸素はありません。酸素(助燃剤)がなければ燃えません。大気圧は1013 hPa ≈ 10^5 Paですから、大気よりも11桁空気が薄くなっています。高地トレーニングとしてはちょっとキツすぎますね。

 また、真空は優れた断熱材でもあるので、試料は600°Cにしていてもチャンバー自体は熱くはありません。すこーし暖かいかなというくらい。熱は、伝えるもの(空気とか金属とか)があるから熱いのです。

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科研費

 科学研究費補助金、すなわち科研費をとりあえず書き終えました。秋と言えば、次年度科研費申請の季節です。文部科学省傘下の日本学術振興会(学振、JSPS)が取りまとめている、研究に関する国家予算制度の一つですね。

 私、英訳でprofessorと言う肩書きが付く准教授(associate professor)なので、研究者でもあります。学生さん達の中には、卒業研究でかかる諸経費は学校から全て必要なだけ出ていると思っている人が多いです。

 「そんな訳、99%ありません!!」です(※多少は出ているので100%にはしません)。

 高専だけ? いや、どこの高専、大学でもそうですよ。

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続きはまた今度

 前回の続きです。ベーキングが無事終わり、PA-PECVD装置が組み上がりました。

 ↓の写真は装置の一部である、イオンゲージ(ionization gauge)です。gaugeとは計器一般を指しますが、ここでは真空計を意味します。イオンゲージは正式には、「B-Aゲージ (Bayard-Alpert hot cathode ionization gauge)」と言います。

イオンゲージの拡大写真。手前2つのカギ(L)型電極の間にあるフィラメントは細くて、拡大しても見えにくいですね。

 真空度(圧力)は真空計で測ります。「そんなん当たり前じゃーん!!」なんではございますが、実は真空度により真空計は複数使い分けなければなりません。と言いますのも、真空計ごとに正しく動作する圧力領域が異なるからです。大気圧(10^+5 Pa)から10^-1 Pa台くらいまでは「ピラニゲージ (pirani gauge)」、10^-1~10^-4 Pa台くらいまでは「ペニングゲージ (penning gauge)」、そして10^-4 Pa台くらいより下は↑のイオンゲージという風にです。今回の装置にも4種類揃っています。えっ? 3つしかないじゃん。ええ、もう一つ、「キャパシタンスマノメータ (capacitance manometer)」という、ペニングゲージとほほ同じ領域ですが、より精密に測定できる真空計を実際の実験条件制御用に備えています。キャパシタンスマノメータという名前は知らない人も多いと思いますが、代表的な商品名「バラトロン (Baratorn)」は有名です。

 さてこのイオンゲージ、測定範囲より高い圧力のときにスイッチONすると、フィラメントが焼き切れて壊れてしまいます。フィラメントのスペアは結構高いので、この業界では「怒られる定番ネタ」の一つです。フィラメントは細くて、↑の写真ではピントが合わずに見えにくいですが、手前の高さが異なる2つのカギ(L)型電極の間に垂直に繋がっています。

 今回新しく計器をセットアップするに際して、採用した在庫品のは切れていたので、新しく付け替えました。しかしこの作業、細かくて慎重を要するので、結構手間がかかりました。

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プラズマCVD装置組み立て中

 有明はまだ雨が続きますね。そんな中、私はただいま東北大学@宮城県仙台市にて、プラズマCVD (plasma-enhanced chemical vapor deposition, プラズマ化学気相成長法)装置を組み立てています。↓の写真がその装置で、昨日組み上がりました(※正確には、組み上がる直前の写真)。

 中央のチャンバー内に基板を入れて、内部を真空にし、その後適当なガスを適当な圧力分入れます。そして放電させてプラズマを生成します。プラズマ中でガス分子は分解されます。分解されたガス分子は基板上に堆積して、膜を形成します。

 作っている装置は、「光電子制御プラズマCVD (PA-PECVD)」というプラズマCVDの一種で、オリジナル装置です。これでダイヤモンドライクカーボン(DLC)という炭素膜をつくって、その物性を評価する研究を行っています。

 電気に何の関係があるかって? プラズマは、高電圧放電の応用の一つです。また作られるDLC膜は誘電体材料であります。DLCは、ハードディスクや金型の表面コーティング材など、既に幅広く用いられている材料です。私はDLCの誘電性に着目して、まあ、いろいろやってきたわけです。

 電気だけでなく、物理や化学の知識も要ります。色々勉強できますし、多方面に顔も利くようになりますので、研究内容を気に入ってはいます。

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批判すること、されること

 研究活動をしていく際、多分どうしても避けられないことになると思いますが、批判活動をせざるを得ません。すなわち、「先行研究の○△という点が不足、欠点、ないし間違っている」ということです。

 高校時代にある先生が仰せられたこと、「評論家になるな」という言が、今もっても頭に残っています。批判に終始せず、自らの行動をもって示すことです。

 研究活動で、全く未知のフロンティアを自由に進めることはまずありません。必ず先人の活動があり、それを乗り越える形で自らの路を作ります。

 古人曰く、「巨人の肩の上に立つ」です。

 乗り越える懸命さは、時に批判という活動に繋がります。先人には先人の壁があり、それは時に答えを知っている後世の私達には低く見えるかもしれません。その際には、自分がもし同じ立場だったら乗り越えられたかと、厳しく自省しなければなりません。

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Fourier級数とFermi–Dirac分布とこの世の成り立ちな自由な研究

 人類の歴史上で賢い人間を挙げろと言われたら、私は2名の人物を推します。Faraday (ファラデー)とFourier (フーリエ)さんです。

 ファラデーさんは、電気磁気学(電磁気学)がもたらす物理現象を一つ一つ実験的に明らかにしていった人です。電磁気学は後年Maxwell方程式でまとめられたように、Maxwellさんが電磁気学の最終的な勝利者と言えなくもないですが、その基礎を造ったファラデーさんの実験力と観察力にはそれ以上に脱帽です。

 一方のフーリエさんは 、その名を取ったフーリエ級数で有名な人です。フーリエ級数曰く、「あらゆる周期関数は、三角関数の級数和で示される」です。なーんてこと思いつきます? その発想力には脱帽です。

 カクカクした矩形波をフーリエ級数で表すと、

という式になります。これをグラフソフトで描いてみます。愛用のソフトはIgor Proです。∞までの和をとるのは不可能なので、k = 15までに留めると、

という形状になります。

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国際会議のお知らせ(11/2 update)

 ”International Symposium on Dry Process” (ドライプロセスに関する国際シンポジウム)という11月18-19日に行われる国際会議で、共同研究者が発表することになりました。その連名末席に名を連ねることになりました。九州大学 古閑 一憲先生のグループとの共同研究です。

ポスターセッション: P-32

S. H. Hwang et al.

Reduction of compressive stress of hydrogenated amorphous carbon films by inserting carbon nanoparticle layer using plasma CVD

 ご時世に従い、オンラインです。

 以下ちょっとした業界説明まで。

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