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信頼性工学、始まるよ

 後期が始まりした。5E割り当ての授業「信頼性工学」が始まります。

 この科目、選択科目です。第2/3種電気主任技術者になるための認定用科目ではありません。電気の専門でもありません。さらに卒業間近の5E後期において開講ということは、つまりは重要性の低い科目です。無理に取らなくても卒業できます。

 しかしながらこの科目、私が最も気を遣う科目です。なぜなら、社会へと巣立つ彼らにとって、一番必要で大切な科目と思うからです。事実、卒業生からは最も評価を得ている科目です。

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2年生コース紹介

 5/30(火)に、2年生向けの専門コース紹介を行いました。有明高専は、創造工学科という総合学科体制を取っています。2年生後期から志望する専門コースに分かれますので、その参考にと前期中に各専門コースが紹介を行う機会があります。

 総合学科制という制度は、最近増えていますね。確かに、入試時点で専門学科を決めるよりも、入ってから低学年の間に広く学んでからの方が良いと思います。中3の時点で、専門分野の深さと広さなんて分かりっこないですからね。

 我がエネルギーコースは毎回、強電系と弱電系の2部屋を巡ってもらう形を取っています。私は弱電系にお店を出しています。電気磁気学に基づいた電磁波と導波管コーナーと、研究内容の2つのお店を出しています。前者は授業内容で、私がお話ししました。電気は単純な、回路配線した電圧と電流だけの世界ではないですよと。

 後者は5年生の研究室メンバーに説明を委託しました。聞き手のレベルに合わせて、短く分かりやすく説明するのもまた勉強です。細かい話をするのは案外簡単です。説明の仕方を考えることにより、自分自身の理解も深まります。

右から、電磁波の自作アニメーションと、導波管セットと、スミスチャート by NanoVNAです。銅板で作った導波管は、過去の2021年度卒業生の作品です。
5年生諸君が説明の準備中です。機会は4回、メンバーも4人なので、一人1回のノルマとしました。

 他コースと切磋琢磨していて、より良い学校にしていければと思います。

NanoVNAの本

 既に授業にも取り入れている昨今話題のNanoVNAベクトルネットワークアナライザ(ネットアナ)ですが、この度前職で同僚だった大井 克己氏がそのテキストを出版されました。前職時代からその話は伺ってはいましたが、晴れて表舞台となりました。

https://shop.cqpub.co.jp/hanbai/books/49/49581.html

 そんなちょうど、あるネットアナのメーカーさんが私を訪ねてこられました。貧乏な私のところに来られても何もないですよと。「この220 GHzのネットアナはいくらですか?」と尋ねると、「○億です」とのこと。う~ん、MBLで活躍しないと無理な金額ですね。

 現在行っている一連のインピーダンスマッチングから導波管ネットアナ評価までの授業スタイルは、そのうち教育関係の学会で発表したいなと思っています。研究と教育は車の両輪ですからね。

導波管

 専攻科6Eの授業で導波管を教えています。3E(通年)&4E(前期)で電気磁気学を1年半、5Eで電子回路設計を半期教えていまして、その総まとめとして、導波管を用意しています。電気磁気学で電磁波を導き、電子回路設計でインピーダンスマッチングを実習させています。その両面を併せ持つのが、導波管です。

ネットワークアナライザと導波管。中3対象のオープンキャンパスでも展示しています。在校生からは引かれていますけど。

 電気磁気学(電磁気学)の面白さと醍醐味は、Maxwell方程式から電磁波を導けることから始まります。それらは授業カリキュラムでは4Eの後半で行っています。それまでの1年と少しの間はひたすら○△の法則ばかりの話です。これらを面白いという人は、世の中にまずいないでしょう。学生さん達には、「面白くないけど耐えて頑張ってね」と言っています。

 19世紀末のMaxwell方程式からの電磁波の予言とその実証により、電気工学は劇的に発展しました。無線通信ですね。量子力学はまだ産声を上げたかどうかの時期ですから、当時の研究者はMaxwell方程式の魅力に取り付かれたのでしょうね。分かります、その気持ち。しかし導波管の等価回路とか、また使用先の例であるマグネトロンとか、当時よくもまあこんなの考えたなあと関心します。シミュレーションやネットワークアナライザがあるわけでもないのによく開発できたなと。理論書も今読んでも分かりません。

 導波管の理論導出の授業資料をつくっていると、スライド50枚になりました。2日くらいかけてつくりました。一応授業1回分です。低学年の授業では1回につきスライドは大体15枚弱ですから、3倍の量になりますね。

 低学年では懇切丁寧に教えていますが、専攻科ともなれば、資料を渡して「勉強しておいてね」で良いと思います。丁寧に教えていたらとても時間が足りないし、丁寧すぎるとかえって自学習しなくなります。学齢に合わせて、段々と離していくべきかと。

 授業資料を作るのはかなりのプレッシャーですが、作ることで自分自身も理解が進みます。なるほどね、と。教うるは学ぶの半ばです。この仕事の醍醐味でもあります。

電気磁気学II Advanced

 着任してから毎年、後期中間試験を終えて冬休みを跨ぐこの時期に「電気磁気学II Advanced」という補講をしています。正式な単位科目ではなくて、ボランティアでやっています。

 正規授業「電気磁気学I」と「電気磁気学II」では、最終的にMaxwell方程式の応用として、表皮効果と電磁波まで行っています。4年生でそこまで・・・という意見もあるかもしれません。しかし高周波回路設計をする上で、表皮効果は必要不可欠です。否、交流大電流を流す上でもその知識は要りますよね。教え子達が就職して、無知を叩かれるのは忍びないので、表皮効果を教えることを目標に授業計画を立てたら、ついでに電磁波までやっちゃいました。

 しかしながら電磁気学という学問全体を考えた場合、やはり特殊相対性理論まで行って完結かなと思います。なぜなら、相対論を考慮しないと、Maxwell方程式からローレンツ力が導出できないからです。Maxwell方程式から導けないものが残るなんて、何か落ち着かないですよね。

 というわけで、そこを補うためにこの補講を行っています。希望者のみの参加にして、かゆいところに手が届くスケールで行っています。

 そもそも、学問というものはこうあるべきだと思います。強いられて行うのではなく、自ら知りたい・学びたいという気持ちが大切です。高専の厳しいカリキュラムではそれを見失いがちです。何のために学ぶのか?

 伸びたい気持ちのある学生達に、自分の手の届く範囲で、伸びる方法を教えています。まあ、年の功っていうやつですかね。

SPring-8終わりました

 週末のSPring-8実験は無事終わりました。当初の目的の他に面白い成果が得られて、今後の研究展開がとても楽しみとなりました。

 最後に使用システムの展示品を見学しました。実際に実験した後だと、実感がこもっていてよく分かります。

アンジュレータの実物模型を体験しています。アンジュレータは、磁場(磁界)で周回している電子の動きをクネクネさせることにより、より強力な電磁波(放射光)を発生させます。学んだ電気磁気学の知識が遺憾なく発揮されます。
アンジュレータの説明文です。
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選択科目ってどうよ?

 選択科目っていうのは本来、Challengingな科目であるべきと思っています。そのココロはと言いますと、

  1. 細かい専門分野の科目
  2. 内容が高度な科目

という具合です。

 1については、高学年になって研究室所属になったりすると、個々の専門性が深くなります。深い専門学問はその分野には大切であっても、他分野や他の研究室にとっては重要性が低かったり、意味が分からないものだったりします。例えば、プログラミングの人達にプラズマはあまり必要ないかなと。

 そんな分野は第一に各研究室で教えれば良いのですが、複数研究室に関係したりすると、選択科目として用意しておいた方が効率的だったりします。

 2については、残念ながら学生間で学力に差があることが原因です。特に若い内から専門分化しなければならない高専では、学年が上がるにつれて、ついていくのがしんどい学生さんが出てきたりします。できる子をとことん伸ばすか、それともできない子を手厚くサポートするかは、永遠の課題です。どちらに偏っても、他方からは不満が漏れます。

 その解決法の一つに、高度な科目を選択とすることがあります。例えば、担当している電気磁気学(電磁気学)の場合、特殊相対性理論をもって電磁気学の完結とするべきと思っていますが、そこまで必修で引っ張ると、撃沈する子が後を絶たなくなってきます。というわけで現在は、興味ある学生さん達を対象に課外で数回行っています。単位には何も関係しませんが、興味津々な学生さんはいます。

 他に量子力学や固体物理学なども同様です。必要なんだけど、必修とするには難しすぎますね。こちらは課外で用意する余裕がないので、研究室で必要な分をぼちぼち教えていくことにしています。

高周波伝送と図書館と知的視野

 今年度は4E担任だけではなく、図書館運営室室員も仰せつかっています。有明高専図書館では毎年新しい本を入れるのですが、今年はその選定の担当となりました。

 「学生さん達にとって何が良いかな~」と、Amazonなどをザッピングしながら適切な本を探していると、David M. Pozarの「Microwave Engineering」の邦訳が出ていることを知りました。ちょっと高かったですが、早速手に入れました。原書と邦訳をセットで揃えるのが好きなものでして。論文等を執筆する際には、英語が基本言語ですので原書が必要なのですけれど、日常読むのはやはり日本語の方が早いです。

原書と邦訳、両者揃い踏みです。

 会社員時代、業務の都合で高周波伝送とそのプラズマについて勉強しました。全く未知の分野でしたので、この本と中島 将光先生の「マイクロ波工学」で必死に勉強しました。自分で本を読むだけでは分かりませんので、実務的なことは同僚だった大井 克己さんに都度教えて頂き、学問的なことは橘 邦英先生(京都大学名誉教授)の知遇を得て、進めていくことができました。ただただ、運が良かったです。

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オープンキャンパス

 8/6(土)に、中学3年生対象のオープンキャンパスを行いました。ただし時世のため、人数制限をしての開催でした。

 Eコースからは、「体験授業・電子分野の展示・電機分野」の3コーナーで行いました。我らがTEAM TAKABAYASHIは、電子分野の一角で展示を行いました。

 なお総合学科制を取っている有明高専では2年生後期から専門コース配属となりますので、このちょっと前に2年生対象のコース見学会を行いましたが、展示内容はそれとほぼ一緒としました。

 展示内容は、「光電子制御プラズマにより成膜したダイヤモンドライクカーボンを用いた炭素エレクトロニクス」と「高周波導波管の作製と評価」の2本柱で行いました。コース見学会では、これに加えて無安定マルチバイブレータやスピーカーインピーダンス整合回路の展示も行いました。

 まあ、詳しく説明するよりも、まずは見た目かな~と。

DLCです。中央のケースの中に入っていますが、見えませんね。スクリーンはCG動画、モニターはスライド動画です。CG動画は、東北大 高桑先生 & 小川先生から頂いたものです。
DLC一覧。成膜の条件を変えると、様々な色が表現できます。炭素原子のみで色々な色が出せます。金色の部分は金電極で、フォトリソグラフィーと金属蒸着を使って、μmオーダーの電極を作り、電気特性を評価します。
高周波導波管です。ストレート導波管 & ダミーロードにネットワークアナライザを繋いで、スミスチャートの画面を映しています。まんまるのグラフです。授業資料(4E 電気磁気学II6E 基礎設計特別演習など)を再構成した電磁波とスミスチャートの説明資料を手前に置いています。

半導体不足と較正キット

 ネットワークアナライザ(ネットアナ)の較正キットがようやく届きました。約20万円するお高いものではありますが、これがなくては何にもできないので、OHTANI選手もビックリのVIP & MVP扱いです。

 でもでも、昨今Newsでよく聴く半導体不足が納期に響いたようで、1ヶ月ほど待ちました。一日千秋、長かったです~。

 そもそも、どんな計測機器にも較正(calibration)、つまり0を0と定めておくことは必要です。身近なテスターやオシロスコープにも何にでも要るのですが、日常使う測定周波数はkHz台と低いですし、較正作業というものは手間がかかりますので、パスされます。

 しかしながらネットアナのようなMHz・GHz帯を守備範囲とする高周波計測機器では、機器から対象となる被計測デバイス(DUT, device under test)までの周辺配線の影響が大きいので、各使用前にキッチリ較正しないと正確な計測が不可能となります。

 難しく言いますと、リアクタンス成分(jX)の影響が、周波数が高くなると大きくなってしまうということです。

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批判すること、されること

 研究活動をしていく際、多分どうしても避けられないことになると思いますが、批判活動をせざるを得ません。すなわち、「先行研究の○△という点が不足、欠点、ないし間違っている」ということです。

 高校時代にある先生が仰せられたこと、「評論家になるな」という言が、今もっても頭に残っています。批判に終始せず、自らの行動をもって示すことです。

 研究活動で、全く未知のフロンティアを自由に進めることはまずありません。必ず先人の活動があり、それを乗り越える形で自らの路を作ります。

 古人曰く、「巨人の肩の上に立つ」です。

 乗り越える懸命さは、時に批判という活動に繋がります。先人には先人の壁があり、それは時に答えを知っている後世の私達には低く見えるかもしれません。その際には、自分がもし同じ立場だったら乗り越えられたかと、厳しく自省しなければなりません。

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Fourier級数とFermi–Dirac分布とこの世の成り立ちな自由な研究

 人類の歴史上で賢い人間を挙げろと言われたら、私は2名の人物を推します。Faraday (ファラデー)とFourier (フーリエ)さんです。

 ファラデーさんは、電気磁気学(電磁気学)がもたらす物理現象を一つ一つ実験的に明らかにしていった人です。電磁気学は後年Maxwell方程式でまとめられたように、Maxwellさんが電磁気学の最終的な勝利者と言えなくもないですが、その基礎を造ったファラデーさんの実験力と観察力にはそれ以上に脱帽です。

 一方のフーリエさんは 、その名を取ったフーリエ級数で有名な人です。フーリエ級数曰く、「あらゆる周期関数は、三角関数の級数和で示される」です。なーんてこと思いつきます? その発想力には脱帽です。

 カクカクした矩形波をフーリエ級数で表すと、

という式になります。これをグラフソフトで描いてみます。愛用のソフトはIgor Proです。∞までの和をとるのは不可能なので、k = 15までに留めると、

という形状になります。

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